IBM Sustainability Software
アイデアミキサー・インタビュー | 皆川 義廣(合同会社KIZUNA代表)後編
2021年08月13日
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軸となる強い意志やアイデアを抱きつつ越境や新分野開拓を実践している方に、その想いや活動について語っていただく「アイデアミキサー」シリーズ。
第5回は、日本IBMで32年間勤務したのち、「ワンコin食堂」や「障がい者グループホーム」など次々とコミュニティーを作り続けている合同会社KIZUNA代表 皆川義廣さんにご登場いただきます。さまざまな活動の根幹にあるのは「愛」。
(インタビュアー 八木橋パチ)
合同会社KIZUNA | https://www.kizuna.fun/
障がい者就労継続支援B型「オフィス・キズナ」やペット共生賃貸マンション、スタッフの7割が障がいを持つカフェ・レストランなどの事業を運営。
本社: 千葉県長南町、代表社員: 皆川義廣
→ 前編はこちら
■ 増やしたいのは活き活きと働ける職場 | 選択肢を増やしていく
— 皆川さんはIBM在職中にメンタル不調に悩まれたということはなかったんですか?
幸い、私は32年間一度もメンタル不調に陥ることはありませんでした。でも、これはラッキーだっただけかもしれないですね。
というのも、IBMに限らずですが、IT業界は精神疾患や自殺が他産業の倍近いというデータがあります。理由はいろいろあると思うけれど、長時間労働や過労ということだけではなく、職種変更がしづらいことも関係していそうだなと個人的には思っています。
そしてこれはIT業界に限らない話ですが、自分の仕事を自分で決められないこと、そして自分の仕事が全体の中でどんな役割を果たしているかを感じづらいというのは、精神的な影響やストレスに大きく関係しているだろうなとも思っています。
— 絶対にそうだと思います。個人的に「しあわせな働きかた」を研究していますが、「自分で決められること」はしあわせと間違いなく強くつながっていますよね。
それはしょうさんだろうと健常者だろうと同じだよね。世の中、誰だってみんなそうだと思う。(障がい者のこと。KIZUNAでは、親しみを込めて彼らのことを「しょうさん」と呼んでいます。詳しくは前編にてご確認ください)
私が増やしたいのは活き活きと働ける職場。そしてそれを増やすには選択肢を増やしていくことが重要だと思っています。
障がい者就労支援B型は単純作業が多いのは事実だけど、それでも来る日も来る日もまったく同じ作業を繰り返すよりも、多少なりとも作業内容が異なれば気分だって変わるでしょう? 「違う仕事がやりたくなった」というときに、選べる環境を作ってあげられるかどうかは大きな違いにつながると思うんだよね。
■ 共生社会を実現する最重要要因は「愛」 | 1番足りていないのも愛
— ペット共生不動産事業の方はどうですか? こちらも障がい者支援事業と同様に順調に進んでいるのでしょうか?
ありがたいことに、順調で、全室バス・トイレ・キッチン付きの130部屋もかなり埋まっています。
先日遊びにきてくれたときにパチにも見学もしてもらったけど、なかなか良い部屋だし快適そうだったでしょ? 率直な感想を聞かせてもらいたいな、どう思った?
— 良いなって思いました。もし自分かカミさんに何かあってどちらかが一人で暮らさなきゃならなくなったら、ここで暮らしたいなって思いました。
そう言ってもらえて嬉しいよ! やっぱり人気の1番の理由は、ペットが暮らしやすいようにフローリング加工を施した22平米のキレイなワンルームマンションが、1カ月21,000円、光熱費込みで33,000円という破格の値段だと思うんだよね。
それから、もちろんご自身のペットを連れてきて一緒に暮らすのもいいけれど、そうじゃなくても犬の福ちゃんがいて、子猫の小判ちゃんがいて、双子のヤギの源さんとチコちゃんもいる。
彼らもとってもかわいかったでしょ?
— ヤギの双子かわいかった〜。ところで、皆川さんの活動のキーワードは障がい者もペットもみんなで共に生きていこうという「共生」ですよね。これはどこから来てるんですか?
自分がペットと暮らす場所を探すのに苦労したっていう原体験もあるんだけど、その後のお袋の高齢者認知症の発症とか、いろいろ経験しながら「自分が実現したいものが何か」を考えていくと、共生社会の実現だったんだよね。
それで…これは真面目過ぎてちょっと照れ臭さも感じるんだけど…共生社会を実現する最重要要因は何かと言えば「愛」だなと。愛でしかないなって思ったんだよね。
— 愛。共生に必要なのは愛だ、と。
しょうさんたちが相手の気持ちを読み取る名人だって、いかにすごい力を持っているかって話をさっきしたでしょう(詳しくは前編にて)。
でも、だからこそ彼らは、日常のいろんな場面で悲しい想いをしているんだよ。彼らの多くが、尊敬や人としての愛を受ける機会がとても少ない人生を過ごしている。自分もそうだけど、駅や電車で「ああ、あの人はちょっとおかしい人だな」って人がいたら、避けてしまうよね。でもね、彼らはそれを感じているの。「ああ、ここでも避けられている。やっぱり私は邪魔者なんだ」って。
でも動物たちは、そんな彼らのことを区別も差別もしない。誰に対しても同じように愛を注いでくれる。社会に足りていないのは、そんな彼らから学ぶことであり、愛だと思うんだよ。
— 激しく共感します。僕らには愛が足りていない。1番足りていないのは愛ですね。うん。
キャベツが大好きな双子。(『源さん・チコちゃん 1歳のお誕生日おめでとう!』より)
■ ホームページ制作、グランピング施設… | 浮かび続ける新事業プラン
— これまで3事業とも順調に進んできているということですが、ズバリ、起業前に考えていたことのうち、これまでにどれくらいを実現できていると感じていますか?
そうだなぁ。…8割くらいかな、起業前の想定と比較すれば。ただね、起業してからもどんどん新しいアイデアが浮かんできちゃって。それに新規事業をやらないかってお話をいただくことも多くて。
それらがしょうさんたちの働く選択肢を増やすことにつながるもので、しょうさんに当たり前の生活を送ってもらえることに近づけるものであるなら、積極的に取り組みたいと思っているんだよね。
— なるほど。ミッション実現に近づくものであれば積極的に、ということですね。実際に起業前には考えていなかったビジネスプランで、スタートしたものもあるんですか?
先日、ホームページ制作をスタートしました。それができるスキルを持つしょうさんと出会ったのと、その方をサポートできる体制が整ったので。
これ、「B型就労」というほとんどが軽作業や単純作業ばかりの中で、おそらく日本初の画期的なことなんじゃないかなと思っています。
→ KIZUNAブログ | ホームページ作成のお仕事を始めます
— 他にも今、廃校を活用したグランピング施設の準備も進めているんですよね?
そう。これはパチにもぜひ1回見にきて欲しいんだけど、「地方創生」「雇用創出」「生きがい創生」なんかを諸々一気に行うもので、私たちは廃校じゃなくて「High光」活用プロジェクトって呼んでいます。
細かく話しだすとキリがないんだけど、中心となるのは、廃校になった学校を活用してグランピング施設を運営しようというもので、しょうさんや引きこもりの若者たちに中心となって運営や管理を行ってもらおうというもの。
彼らにアースバック工法という環境にもお財布にも優しい工法で住居を作ってもらったり、休耕田や畑を使って地産地消の生活をしてもらったりする。これらの活動を通じて地域に雇用を生みだし、町に活気を取り戻していこうというものです。地方創生にぴったりでしょう?
→ KIZUNAブログ | High光(廃校) 活用プロジェクト より
— 前からアースバック工法にちょっと興味持ってたんで、体力的に心配だけどやってみたいです!
ぜひ! 一緒にやろうよ。グランピング施設自体は「星Fullグランピング・キズナ」と名付けて、オンリー・ワンなものを作りたいと思っているんだ。
このプロジェクトを通じて、しょうさんはもちろん、都会暮らしに疲れてしまった若者や引きこもり生活をしている人にも、ぜひ大自然の中で生きる喜びを感じてほしいんだよね。自然がすぐそこにある環境の中で、自分たちの力で生活を切り拓いていく体験をすれば、きっと自分の中に眠っているエネルギーに気づいてもらえると思わない?
日本の悪化する若年層の自殺問題の解決にも、少しは役立てるんじゃないかなと思ってるんだよね。
■ 絶賛募集中! | 「誰かのために仕事をしたい」仲間
— 素晴らしいな。ぜひ、手伝わせてください! 他にもまだ何か考えているサービスはありますか?
これも絶対実現したいなと思っているのは、精神障がいを持つ人たちの心のケアをする訪問看護と、地域高齢者向けのスポーツジム。この2つも早くやりたいなと思っています。
ただ、いろいろとやりたいことがたくさんあってとても手が回らないので、一緒に事業を始めたい、進めたいという職員や仲間を募集しています。パチも、誰か良い人がいたら紹介してね。
— 喜んで! どんな人に来て欲しいですか?
「誰かのために仕事をしたい」って気持ちを強く持っている人。
それから、福祉業界を変えていきたいっていう人たちにも来て欲しいな。それと、これは一緒にKIZUNAで働きたいって人だけじゃなくて、もっと違う形でパートナーシップを結びながらやるような方法もあっても良いんじゃないかとも思っているの。
広く、いろんな仲間と手をつなぎながら
— ビジネスとしての可能性はどうなんでしょうか?
今、日本の障がい者数は900万人にまで増えていて、職場では周囲に知られないように無理している「隠れ障がい」と呼ばれるような人も加えれば、おそらく1千万人を超えているでしょう。でも、受け入れ口は全然足りていないのが現状。
だから、これまでこの業界とつながりのなかった経営者にも参入してきて欲しいね。ちゃんとした経営者がちゃんとビジネスモデルを考えてやれば、収益は間違いなくしっかり上がります。
でも、それだからこそ「心ある人」に参入してきて貰いたいんだよね。
–– 最後の質問になります。2050年、皆川さんが見たいのはどんな景色ですか?
深い質問だなあ。うーん、2050年っていうと87歳になってるのかぁ。まず趣味のことで言えば、まだ現役のフルマラソンランナーでいたいね。
そして見たい景色は…やっぱりしょうさんたちが「当たり前の生活」をしている社会です。こないだも、うちで働いてくれている1人のしょうさんに彼の夢を聞いたんだけど、「結婚して大家族を持ちたい」んだって。それが実現していて欲しいな。
「皆川さん、初孫が生まれたから遊びに来てください! 顔見に来てください!」なんて、そんな連絡を貰えたらサイコーだよね。
インタビュアーから一言
「いつも陽気でパワフルで、どこかお気楽そうな雰囲気の人」 –これが数年前までの私の皆川さんに対するイメージでした。そんな皆川さんが、障がい者就労や社会課題に取り組むことはまったく想像していなかったので、共通の友人から「皆川さんが千葉県長南町にグループホームを作ったんだって」と聞いたときには、え? なんで? なんて思っていました(失礼!)。
でも、その後何度かブログを通じて活動にかける思いを目にし、そしてしっかりと話を聞かせていただき、「これは応援するしかない!」って強く思いました。
皆さんもぜひ、ブログをチェックしてみてくださいね!(オヤジギャグ多めですが、そこはなにとぞ大目に見てあげてください(笑))
(取材日 2021年7月9日)
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