IBM Sustainability Software
ブロックチェーンが伝える、美味しく安全で適正な食の流通
2021年03月25日
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110年以上の歴史を持ち、日本最古の英字新聞としても知られているThe Japan Times。
そのJapan Timesの3月7日発行分に、『Your dinner has an origin story and blockchain tech can help you find it』(試訳: ブロックチェーン技術が伝える、あなたの夕飯の生い立ちの物語)という記事が掲載されたました。
主な内容は、日本でブロックチェーンがどのように活用されているか、そして今後どのような見通しが立っているのかを紹介するものでしたが、記事内ではIBMの国内外での取り組みもいくつか紹介されていました。
当記事では、記事の一部と併せ、IBMのブロックチェーンのスペシャリストによる解説をご紹介します。
■ 記事の一部をご紹介
以下は、記事『Your dinner has an origin story and blockchain tech can help you find it』の一部となります(全文の閲覧にはThe Japan Timesの会員登録が必要です)。
In Japan, blockchain is being trialed as a substitute for traditionally opaque and paper-heavy exchanges in products ranging from seafood to sake. The technology promises to improve efficiency, effectiveness and transparency by making trusted information available to all stakeholders from farm — or ocean — to table.
試訳: 日本では、シーフードから日本酒に至るまで、これまで紙を中心に透明性の低い形で取引されていたものが、ブロックチェーンでの取引に変化を遂げているところです。
農場や海から食卓に上るまで、すべての利害関係者にブロックチェーン技術が信頼できる情報を提供することで、「効率」「有効性」「透明性」を向上させます。
One of the big players using blockchain in this sector is IBM Food Trust, launched globally in 2018 with the backing of 11 agri-food companies including Walmart, Dole and Nestle.
試訳: 食品分野におけるブロックチェーンの最大手の1つが、ウォルマート、ドール、ネスレを含む11の農産物・食品関連企業の支援を受け、2018年にグローバルにスタートした「IBM Food Trust」です。
This type of technology is still experimental in Japan, with pilot projects targeting products such as organic vegetables, sea cucumber and game meat. IBM Food Trust is involved in the “ocean to table” pilot together with partners including Seafood Legacy, a sustainable seafood consulting company based in Tokyo.
試訳: 食品のトレーサビリティを実現し、エコシステム全体の効率向上を実現するブロックチェーン・システムの導入は、日本においては現在まだ実験段階です。
有機野菜、ナマコ、狩猟肉などを対象食品とした多数の実験プロジェクの中で、「IBM Food Trust」を採用している有力プロジェクトの一つが、東京に拠点を置く持続可能なシーフードコンサルティング会社シーフードレガシーをはじめとしたパートナーと共に実施中の「Ocean to Table」プロジェクトです。
Blockchain is being used to collect and share detailed information about sea perch caught in Tokyo Bay. The fish can be purchased online at Earth Mall with Rakuten, and the data, gathered directly from the vessel, will be made available to consumers through the Ocean to Table app, due to be launched this year.
試訳: 「Ocean to Table」では、東京湾で捕獲されたスズキに関する詳細情報の収集および共有にブロックチェーンを用いています。水揚げされたスズキは「サステナブルな買い物をあたりまえに」の考え方に基づいた楽天のECサイト「EARTH MALL with Rakuten」で販売されます。そして今年公開予定のOcean to Tableアプリを通じ、消費者には直接漁船から取得されたデータが提供されます。
参考: Ocean to Tableプロジェクト:ブロックチェーンで漁業をサステナブルに
■ ブロックチェーン・スペシャリストに聞いてみた
以下、ブロックチェーンの日本における現状と今後、そしてIBM Food Trustがどのように食の未来に貢献できるのかを、ブロックチェーンのスペシャリストである勝見 啓子さん聞いてみました。
回答者: 勝見 啓子
Technology事業部
Cognitive Application Blockchain Solution担当
Q1: IBM Food Trustの目的とミッションは?
A: IBM Food Trustは、食品業界にとって長年の課題である「食の安全性確保」や「流通経路の透明性」、「フードロス」、「食品汚染など発生時の風評被害」などを解決することを目的としたデータプラットフォームです。
Q2: 消費者にとってのブロックチェーンのメリットは?
A: 主に以下のようなものが挙げられます。
・ 食品の来歴が可視化されるので、消費者自らが食品の安全性を確認できます。
・ 来歴情報がサプライチェーン全体で可視化されるため、食品偽装・不正への抑止力が働きます。
・ 食品汚染が発生した場合、影響がある可能性のある食品を早期特定でき、危険な商品の流通を防ぐことができます。
Q3: ブロックチェーンはどのように持続可能性を高め、食材・食品廃棄を減らすのでしょうか?
A: まずサプライチェーン全体を可視化することにより、プロセスの非効率性を特定でき、フードロスが発生している要因を特定できる可能性が高まります。IBM Food Trustには鮮度管理機能があり、これを活用することで消費期限が近づいている食品から優先的に利用したり、近くの店舗に融通して消費するなど対応策を打つことができるようになります。
また、プラットフォームから得られるデータを分析することで、需要予測に活用することもできます。
Q4: 企業が食のサプライチェーンにブロックチェーンを活用する方法は?
A: 活用方法は複数あります。
1つは、すでに運用されているIBM Food Trustにユーザー企業として参加し、このプラットフォームの機能を活用することです。例えば、収穫した農作物が家庭に届くまでのトレース機能や、サプライチェーンの各プロセスでどれだけの時間滞留したか表示する鮮度管理などの機能を、数週間程度で利用開始できます。
もう1つの活用方法は、自らが食のサプライチェーン・プラットフォームを新たに構築する方法です。IBM Food Trustを他の産業・利用方法にも活用できるよう汎用化したSaaSサービス「IBM Blockchain Transparent Supply」を利用することで、商品のトレースだけでなく幅広い業務に応用することができます。
例えば、コーヒーの購入者が商品の流通経路を追跡して、その品質や生産地を確認できる「Farmer Connect」というプラットフォームは、IBM Blockchain Transparent Supplyを活用して短期間で構築されました。
その他にも、ワインやオリーブオイル、中古タイヤ、医薬品などのトレーサビリティなどを実現する方法として活用されており、幅広い業界・業務に広がっています。
参考: コーヒー豆農家と消費者をつなぐブロックチェーンアプリ「Thank My Farmer」
Q5: 日本市場でのブロックチェーンの採用にあたっての課題は?
A: いくつかありますが、最大のものは、日本の食品企業が使用する商品コードが世界基準のものではなく、独自コードであることが多いことです。サプライチェーン上の他企業の情報と互換性がないことから、システム連携がしづらいことがネックとなっています。
Q6: 今後、日本で食のサプライチェーン分野でのブロックチェーン導入は拡大するでしょうか?
A: 新型コロナウイルスの影響で物流の混乱が生じるなど、日本国内においてもサプライチェーン全体の可視化による適正な需給の確保が求められています。
また、これまで日本国内では「食品安全神話」によりトレーサビリテイーを証明することに価値を見出しにくいとされていましたが、日本の農水産物や食品の輸出拡大が国策と捉えられる中、安全神話が通用しない海外市場に対しても、透明性の高いデータで品質の高さを証明する必要が増していくであろうことを考えると、拡大するものと考えます。
いかがでしたか。
今後もIBMは、パートナー企業や組織とのコラボレーションを通じて、ブロックチェーン技術を推進し、美味しく安全で適正な食の流通とフードロス問題に取り組んで参ります。
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Cognitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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(TEXT: 八木橋パチ)
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