IBM クラウド・ビジョン
ハイブリッドクラウド戦略の必要性と価値
2021年03月02日
カテゴリー CIO|CTO向け | IBM クラウド・ビジョン | クラウド戦略立案
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IBMはRed Hat OpenShiftを「ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」に位置づけ、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド・サービス、SIプロジェクトの各分野で、コンテナ化を軸として、お客様のビジネスの成功を支援する活動を展開しています。本稿では、IBMがなぜコンテナ中心の戦略に至ったのか、その背景と活動について解説します。
1.オンプレミスからクラウドへの移行の課題
2.クラウド利用を推進するお客様企業の現状
3.ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの違い
4.オープンソース化と導入課題
5.コンテナの必要性と利用価値
6.コンテナオーケストレーターの必要性と課題
7.さらに次の段階へ
8.まとめ
高良 真穂
日本アイ・ビー・エム テクノロジー事業本部 ハイブリッドクラウド CTO
日本IBMへ入社以来、自動車、航空、金融、大学および研究機関などのプロジェクトに参画。基幹系システムから科学計算システムまで、幅広いシステムを手掛ける。現在、IBMクラウド戦略の一環であるKubernetesをコアとしたIBMクラウド・サービスやソフトウェア製品を担当。『15Stepで習得Dockerから入るKubernetes コンテナ開発からK8s本番運用まで(StepUp!選書) 』の著者。
オンプレミスからクラウドへの移行の課題
パブリッククラウドの料金が、オンプレミスの運営コストよりも安く、企業情報システムの要求を満たせるならば、企業は、間違いなく情報システムを、パブリッククラウドへ移行することでしょう。しかし、現実はそうなっていません。依然として多くの基幹業務システムはオンプレミスに留まったままです。移行が進まない原因は、以下に示すように、アプリケーションをクラウドへ引っ越すメリットが得られないためです。
- 既存の基幹業務システムを、クラウドで受け入れられる環境がない。メインフレーム上の基幹業務システムがコアとなって、オープン系技術で周辺システムが構築されているため、メインフレームをクラウドへ移行して運営コストを下げられなければ効果がない
- 統合化されたデータベースがオンプレミスに構築されているため、アプリケーションだけをクラウドへ移行することはできない。もしアプリケーションだけをクラウドに移行したとすると、DBアクセスにネットワークの距離遅延が加わり、処理能力が劣化する懸念がある。さらに、二重運用となると管理が複雑化してコストアップにつながる
- すでに敷地内にデータセンターを保有しており、コストをかけてクラウドへ引っ越す必要性がない
このような理由から、メインフレーム時代から業務システムを構築してきた大企業の多くは、既存システムをクラウドへ移行する価値は無いと感じているようです。しかし、これは短期的には正しいようですが、機器や設備は老朽化していずれ更新時期を迎えます。そして、経営環境も変化し続けるため、企業の存続のために情報システムも進化が続きます。
このことから、オンプレミスのシステム基盤は引き続き中核として運営が続くと考えられますが、一方でシステム基盤にクラウド技術を導入して俊敏性を向上させる機運が高まっています。
クラウド利用を推進するお客様企業の現状
すでにクラウドを利用しているお客様では、ビジネスの要求に迅速に対応するために、複数のクラウド事業者を採用せざるを得ない状況があります。一方、特定のクラウド事業者に絞って利用することは、大口割引や長期割引の適用対象としてコストを下げ、さらに運用管理のスキル発散を回避して人材不足に対応できるメリットがあります。しかし、ビジネス側の要求に応えるために、特定クラウド事業者の進化を待っていられないのです。
このような背景から、ビジネス・リーダーたちはハイブリッドクラウドを望んでおり、その傾向は従業員数が多いほど高まる傾向にあります。その理由は、オンプレミスに存在する従来からの情報システム資産を生かしながら、クラウドの新機能や経済性を有効に活用したい※1と考えるためです。
※1 出典:「Voice of the Enterprise: Cloud, Hosting & Managed Services, Workloads and Key Projects 2018」(発行:451 Research)
ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの違い
マルチクラウドの明確な定義はありませんが、インターネット上の解説記事などでは、複数のパブリッククラウドを利用することだとされています。
一方、ハイブリッドクラウドは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)発行の『NISTによるクラウド・コンピューティングの定義』(NIST Special Publication800-145)によれば、「プライベートクラウドやパブリッククラウドなど2つ以上の異なるクラウド基盤を活用することを表し、データとアプリケーションのポータビリティーを可能にするため、ロード・バランシング、クラウドバーストなどの標準技術や独自技術によって結合されるもの」とされます。
図1:ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの違い概念
簡単にまとめると、マルチクラウドとは複数のパブリッククラウドを活用することを指し、ハイブリッドクラウドとはパブリッククラウドとオンプレミスを含むプライベート環境を平行して利用することを指します。また、エッジ、すなわちデータ発生源の近くにサーバーを配置して高速な処理を目指すエッジコンピューティングもハイブリッドクラウドに含めることが多いようです。
前述のように現在、多くの大企業では複数の環境を連携させて活用するハイブリッドクラウドを推進することに関心が集まっているのです。
オープンソース化と導入課題
現代人の生活に欠かせなくなったiPhoneやAndroidのアプリケーションは、気象情報、電車ダイヤ、地図、ショッピング、口座振り込み、日常のコミュニケーション、AIによるアシスタントなどだけでなく、Uberのように既存のビジネス・モデルを破壊して新たなビジネスを創出する力を持っています。
これらのアプリケーションの開発環境は、アプリケーション開発者とコミュニティーの主導で作られたオープンソース・ソフトウェア(OSS)が主流となり、使い易く安価に利用できるように発展してきました。OSSならば、ビジネスが成長してアクセス量の増大によりCPU増設が必要になった場合も、ミドルウェアのライセンス契約が妨げとなって販売機会を逃すようなことはありません。そのため、AI技術、IoT、データ分析など新たな分野のアプリケーションは、OSSを活用することが一般的となっています。
しかし、OSS利用にも課題もあります。さまざまなコミュニティーによって開発されるため、結果として頻繁にアップデートが発生し、短いサイクルで更新を繰り返さなければなりません。このような更新を迫られる理由は2つあります。1つはソフトウェアのバグ対応や機能改善です。これは不具合に困っていなければ急いで適用する必要は無いかもしれません。
2つ目は脆弱性対応です。OSSを安心、安全に使うために、脆弱性を識別してデータベース化し、問題をトラッキングする国際的な活動があります。このような活動が始まる以前は、OSSの欠陥を突いた攻撃があっても、気付くことなく情報が漏洩していました。しかし、現在は欠陥が発見されると、その内容を開示して対策を求めます。そのため、古いソフトウェアを利用し続けた場合、既知の脆弱性によるセキュリティー・インシデントを引き起こすリスクが高くなります。
このようなことから、OSSを利用する際には、更新に追随していく必要があります。その理由はパソコンのOSをアップデートするのと同様です。個人が利用するパソコンであれば、更新プログラムに問題がありアプリケーションの動作に不具合が起きても、被害を受ける範囲は比較的小さく収まります。しかし、アプリケーションを配信するサーバーの場合は、利用者全体に影響があるだけでなく、企業の業務にまで影響を及ぼす恐れがあります。
この問題に対処するために生まれてきたのが、次に紹介するコンテナです。IBMはコンテナを利用してミドルウェアを提供し、迅速な機能改善と安定動作の両立を図っています。
コンテナの必要性と利用価値
コンテナは、OSSとして開発されたアプリケーションの安定性やセキュリティーを獲得するために不可欠な存在だと考えられています。コンテナは不変のインフラストラクチャー(Immutable Infrastructure)とも呼ばれ、アプリケーションにとって基盤となるソフトウェアやライブラリーが想定外に変更されることを防止します。
図2:コンテナのビルドと実行概念図
例えば、Javaアプリケーションに必要なサーブレット環境やSQLデータベースに接続するためのモジュール一式とともにアプリケーションをコンテナ化します。これには、Linuxのディストリビューションも含まれます。したがって、コンテナをデプロイするだけで、ミドルウェアをセットアップすることなく直ちにアプリケーションを利用できます。コンテナを利用することで、サーバー環境のOSセットアップや管理からも解放されることになります。
コンテナは、図2のDockerfileから何度でも自動的に作り直すことができます。そのため、モジュールに変更が生じた場合、既存のコンテナを破棄して、新たにビルドしたコンテナに置き換えるだけで更新が完了します。これに要する時間は数分程度であり、後述するコンテナオーケストレーターは無停止で更新する機能も備えています。
コンテナオーケストレーターの必要性と課題
コンテナはアプリケーションの理想的な実行環境ですが、スケール、可用性、監視などの非機能要件に対応する機能を備えていません。そこで開発されたのが、コンテナオーケストレーターKubernetesです。これは世界中のITベンダー600社以上が参加する国際的な財団CNCF(Cloud Native Computing Foundation)によって開発が進められています。IBMもCNCF創設メンバーの1社となってIT業界の発展に寄与しています。
Kubernetesは、コンテナ化アプリケーションに次の機能を提供します。さらに多くの機能があるのですが、ここでは代表的なものを3つだけ挙げておきます。
- コンテナが障害で停止した際、他のサーバー上で自動的に再起動して可用性を確保
- CPUやメモリーの使用状況に応じてオートスケールし、応答性能の劣化を防止
- ログ収集と分析、メトリックス情報の収集と分析
従来、アプリケーションの実行基盤の構築では、ミドルウェアごとにスケールや可用性を確保するための実装を行ってきました。今後、非機能要件への対応はコンテナオーケストレーターが包括的に受け持つことになります(図3)。これによって、アプリケーション実行基盤の構築やバージョンアップに関わる期間とコストは大幅に削減されると期待されています。
図3:従来方式とコンテナオーケストレーターの違い概念図
CNCFでは、Kubernetesの他にも、コンテナ化アプリケーションを組織的に効率良く運用するためのOSS開発プロジェクトを支援しています。Kubernetesもクラウドネイティブなソフトウェアの1つであり、複数のOSSプロダクトを組み合わせて成り立っています。
KubernetesはOSSですから、誰でもダウンロードして利用できる反面、それを構成するさまざまなソフトウェアのバージョンの組み合わせと設定、動作検証とバグ対応、脆弱性対応などが必要とされます。そのため、本番運用に適用するには高度なスキルを持った人材のチームを必要とします。
このような課題に対応するために、比較的手軽に利用できるクラウドのKubernetesサービスやソフトウェア製品があります。なかでもRed Hat社によって製品化されたOpenShiftは、オンプレミスのサーバー上に導入して利用可能なほか、クラウドのマネージド・サービスで利用することもできます。そして、動作上の問題があればサポートを受けることもできます。
CNCFがソースコードを開示するKubernetesを、上流を意味するアップストリームKubernetesと呼び、ベンダーによって機能追加とサポートなどの付加価値を付けたプロダクトは下流を意味するダウンストリームKubernetesと呼んで区別しています。IBMでは、ダウンストリームKubernetesであるOpenShiftを企業向けプラットフォームと位置づけてプロダクト・ポートフォリオの拡充を進めています。
さらに次の段階へ
ビジネス・リーダーたちはハイブリッドクラウドを志向し、IT業界はOSSを推進してコンテナ中心のプラットフォームの開発と普及を進めていることを述べてきました。このような状況の中でIBMは戦略的な活動を進めています。
図4の下から2番目にハイブリッドクラウド・プラットフォーム(Hybrid Cloud Platform)としてRed Hat OpenShiftを位置づけています。これは大手クラウド・ベンダーのサービスとIBM Cloud、メインフレーム、Power Systems、ストレージ製品、さらに他社製品を含めた共通のコンテナ実行基盤となります。
図4:ハイブリッドクラウドのIBMプロダクト
このように、OpenShiftを中核にして各基盤の違いを吸収し、共通のコンテナ実行環境を提供します。さまざまな違いを吸収して同一のオペレーション環境を提供することから、OpenShiftは「第二のオペレーティングシステム」と比喩されることもあります。
OpenShift上に、コンテナに最適化されたミドルウェア群のIBM Cloud Paksを「ハイブリッドクラウド・ソフトウェア(Hybrid Cloud Software)」として位置づけています。これは分野ごとにミドルウェアを複数まとめたものであり、(1)アプリケーションの開発と実行、(2)データ連携基盤、(3)機械学習やAIを利用するデータ分析基盤、(4)AI技術を適用した運用監視、(5)セキュリティー管理、(6)ビジネス・オートメーションがあります。そして、インダストリー向けにパッケージされたプロダクトもあります。これらのミドルウェア群は、コンテナとオーケストレーターの利点を生かしたものであり、迅速で自動化された更新や運用性の改善が見込まれています。
製品やクラウド・サービスの最上位には、お客様のビジネスの成功を支援するIBMのSIサービスが位置づけられています。IBMでは、クラウドはもとより、お客様がクラウドネイティブな技術を活用して、ビジネスを発展するための包括的なソリューションを提供しています。
まとめ
オンプレミスからクラウドへ移行できない課題を挙げ、ビジネス・リーダーたちがハイブリッドクラウドを目指す背景について最初に触れました。
一方、OSSという潮流によって、これまでのビジネス・モデルを覆すようなアプリケーションが生まれていること、その中でアプリケーションの安定動作のためにコンテナが生まれ、これまでよりも生産性の高い実行環境を目指してIT業界の企業数社がCNCFを発足し、Kubernetesなどのクラウドネイティブ・ソフトウェアの開発と普及が推進され、発足からわずか約6年で600社を超える支持を集めています。
そして、これらの流れが合わさり、コンテナとKubernetesなどのクラウドネイティブ技術を利用したハイブリッドクラウド上で、新たなビジネスを創出することに関心が集まっています。
このような状況の中で、IBMはRed Hat OpenShiftを共通の「ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」に位置づけ、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド・サービス、SIプロジェクトの各分野で、お客様を支援する活動を展開しています。
メインフレームからクラウド・サービスまで長年の経験と実績を持つIBMに、ぜひクラウドネイティブ化への対応をご相談ください。
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