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EAMの勘所:第10回 RCMの考え方と管理手法(5)
2014年06月14日
カテゴリー IBM Sustainability Software | 設備保全・高度解析
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RCMタスクの実行
EAMの勘所とは
企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第10回目は「RCMの考え方と管理手法」に関して、RCMタスクの実行についてご紹介いたします。
RCM活動のための管理台帳の作成を完了したら、対象機器に対するRCMタスクを実行します。RCMタスクは以下の活動に分類されます。
1. 予防保全の実施
RCM活動で作成した設備台帳に記載されている保全パラメーターに従って、予防保全作業を実施します。予防保全は定期的に設備の状態を確認してメンテナンスを行う作業で以下の作業に分類されます。
表1:RCMタスクの種類
予防保全の種類 | 設備停止 | 設備状態 | 説明 |
---|---|---|---|
モニタリング | 不要 | 変化なし | 設備の状態を定期的に確認し、以上のないことを確認する。 |
検査 | 要/不要 | 変化なし | 機器の状態を目視や測定、非破壊検査などで検査を行い現在の状態を確認する。 |
試験 | 要/不要 | 変化なし | 運転パラメーターの性能を満足しているかなどの動作試験、性能試験を行う。 |
サービス | 要 | 変化あり | メーカーや業界規格の要求に従ってオーバーホール点検や部品・潤滑油などを定期的に交換する。一般的にサービスを実施すると設備の状態が変化する。 |
グリスアップ | 要/不要 | 変化なし | 潤滑油などを定期的に補充する。 |
このような作業は通常メンテナンス作業としてすでに行っているものです。RCM活動は特別な保全活動を必要とするのではなく現在も行っている保全活動をRCM活動の枠組みで整理して組織や部門の標準化されたプロセスの一部として実施するものです。
【モニタリング】
モニタリングは通常計装システムが運転パラメーターに従って設備が正しく稼動しているかをモニターします。従ってモニタリング作業を自動化することは効率 上非常に重要です。しかし、保全員による定期的な巡回点検などは保全員の「眼」「耳」「におい」「感触」など自動的な計装システムでは検知・感知できない 異常を発見することが出来ます。したがって人間系によるモニタリングは非常に重要な作業です。
また計装システムによってモニタリングされる場合、その値の可否よりも、その値の推移(トレンド)が重要な意味をもちます。従って自動的にモニタリングされる値はトレンド分析が出来るシステムと連携する必要があります。
【検査】
検査はその設備や部品が「あるべき状態にあるか」を定量的に確認し、運転を継続してよいか否かの認証を与える行為です。通常検査という用語は「法律などに 基づいて行われる外部的な検査・監査」という意味合いを与えますが、保全員が検査をして設備の稼動を許可するという意味では、内部的か外部的かにはよら ず、その設備の運転を許可する行為です。したがって検査を行う担当者はそれなりの技能と能力を保持している必要があり、保全員の資格管理などとも密接に連 携する必要があります。
また検査には明確な数値的な指標(合格ライン)がなければならず、この基準に従って検査員の主観にとらわれない判断ができ、またその証拠を記録することが出来なければなりません。
【試験】
試験は対象となった設備が正しい機能を果たしているかを実際に「試す」行為です。したがって設備の状態が変化した場合(例:定期修理による部品交換、故障修理など)に伴って実行される作業です。
【サービス(交換)】
サービスとは定期的なオーバーホールによる清掃作業、潤滑油交換、部品交換など特定の作業を行い、設備に対して何らかの変更(状態の変更、構成の変更な ど)を行う作業です。一般的にこの作業をメンテナンスと呼んでいます。サービスでは設備の分解、再組立て、部品交換などを行うことから作業員の技能が設備 に与える影響は大きく、また使用する部品の情報も密接に関係しています。したがってサービス作業では作業員、使用資材・部品の情報を細かく記録し、後に問 題が発生した場合の追跡ができるようにしなければなりません。
【グリスアップ】
グリスアップは設備の稼動部の摩擦を防止するために定期的に潤滑油を注油する作業で、保全員が実際の設備を間近に見る絶好の機会です。現在ではTPM活動 などの普及により、製造部門の設備オペレーターが設備のグリスアップを行うこともあり、製造作業で毎日設備に接している担当者が設備に状態の変化に気がつ くことも多くなってきています(保全員よりも鋭いセンスで設備を見ている)。したがってこのようなさまざまな機会を利用して設備の状態、異常の兆しなどを 共有することは非常に有用です。
一般的に日本では「点検」という言葉がありますが、点検は上記の「モニタリング」「検査」「試験」「サービス」などを総合的に組み合わせたもので始業点検、定期点検などいう言葉に用いられます。
保全戦術としての分類では予防保全は以下のように分離されていますが、これは周期(次回作業日)の決定方法による分類で作業自身を分類するものではありません。
表2:予防保全の種類
予防保全の種類 | 説明 |
---|---|
時間基準保全 (TBM) |
時間ベースの周期を設定する保全。法令による規定、メーカーや業界団体の保全周期の推奨値などが設定される。また時間基準とはカレンダー基準ばかりではなく、動作回数・走行距離など利用量ベースの設定に分かれる。 |
状態監視保全 (CBM) |
状態(コンディション)を基準にして次回の保全作業日を決定する。例えば規格値の逸脱、潤滑油の色など比較的簡単な値で状態を把握できるものに適用する。 |
予知保全 (PrdM) |
モニタリングによって得られた測定値を技術的に分析し、予寿命などを技術的・統計学的に予測して、次回に保全作業日を決定する。 |
2. 事後保全の管理
RCMでは予防保全を管理することが強調されがちですが事後保全(例:緊急保全、故障保全など)も重要な活動の一つです。事後保全は「起こってほし くない事態が発生した」ことを示すもので、現在まで設定して管理している周期、保全標準などのRCMの保全パラメーターに誤りがある場合が原因になってい る可能性があるからです。故障修理などの事後保全が発生した場合は、通常修理作業を行った後、故障報告書などに詳細な故障情報を記録することは一般的です が、RCMの保全パラメーターを再検討することまでは行われていないこともあります。したがって故障保全はRCMを見直す非常に「よい」チャンスと考える ことができます。
事後保全が発生した場合、一般的に以下の内容の再検討を行います。
- 故障部位は設備台帳(OELまたはMEL)に記録されているか?記録されていない場合(即ち新たな部位での故障)、その部位を特定して設備台帳に登録すべきか、または設備台帳の階層構造に問題がないかを再検討する。
- 当該設備に対して行っている予防保全(検査、試験、サービスなど)の周期が適確であるかを再検討する。
- 作業標準を見直し、故障部位の検査、試験などが実際に行われているかを確認するとともに、作業標準に検査などの作業項目が入っていない場合、作業標準へ検査項目を追加し更新する。
また故障修理などの事後保全では故障の情報を正確に記録し、後の担当者が容易にアクセスできるようにする必要があります。故障情報はその企業は組織において非常重要な知識であり、この情報は未来の保全担当者への知識として継承されなければならないのです。
3. RCMプロセス
今までの説明でRCM活動は通常の保全管理の活動とさほど大きな違いがなく、現在の保全作業でも十分に設備は健康に維持されているのに「なぜ、いま RCMが必要なのか」という疑問を抱く方も多いと思います。通常、優秀な保全員は設備の状態を把握し、いつメンテナンスを行う必要があるかを知っていま す。そういう場合、保全作業はその担当者が会社にいる限り「絶対的に安全であり、また最も効率がよい」保全を提供することが出来ています。
しかし、その優秀な保全担当者はいつまで、その会社や組織にとどまっていることができるかはわかりません。現在2007年/2010年問題でベテランの保全担当者を、退職延期措置で社内で仕事をしてもらっていても、永遠にその担当者に働いていただくわけにはいきません。
通常、コンピューター・システムに保全プログラムをセットすると、設定した周期に従って必ず保全作業が計画されるために、その全てを実行すると保全 コストはお膨大になります(即ち、保全コストをコンピューター・システムで低減することは出来ないのです)。では現在は「なぜ」最適化されたコストで保全 が運用されているのでしょうか?
それはベテランの保全担当者が技術と経験に基づき、保全計画を調整しているからです。しかしその調整や判断の能力は担当者単位にバラバラで、また失われていく運命になります。
この問題を解決するためにRCM活動では日々の保全活動の結果を逐次検討して、RCMの分析で作成した保全パラメーターを変更していかなければなら ないのです。つまりRCM活動はベテランの保全担当者のノウハウを共有化して、保全プログラムを最適化していくための活動にほかなりません。したがって RCM活動はきちんとした組織で、また継続的に活動を行うことが重要で(非常に多くの時間と人員を割いて活動するため、途中であきらめてしまっては大きな 投資損失になってしまいます)、個人に属した活動ではありません。
したがって、現在同様の保全活動を行っていても、RCMの活動組織と管理プロセスがないと、それはRCM活動とはいえないわけです。
下に、RCMの実行プロセスを示します。このプロセスはリビング・プログラムともよばれ、日常の活動のなかで行われるプロセスです(ですからリビン グ・プログラムという名前がついています)。リビング・プログラムはRCM活動の継続を図り、保全結果をRCMの分析にフィードバックして保全パラメー ターを変更するかを管理するプログラムです。
図1:RCMプロセスと情報のフィードバック(クリックで拡大)
次回はリビング・プログラムの詳細について説明します。
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