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完全自動航行船メイフラワー号を支えるAI、エッジ、ウェザービジネス
2020年07月20日
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当記事は、英国とアイルランドにてIBMのCTOを務めるアンディー・スタンフォード・クラークの書いた『For the Decade of Ocean Science, We Need More Data』をベースに、日本向けに再編集したものです。
少しの間、目を閉じてみましょう。
世界は新型ウイルスに、そして政治的な争乱や環境問題に溢れています。「どこか、心休まるところに行きたい」– そんな想いが浮かんできたとき、人がイメージする行き先といえば…そう、海です。
多くの皆さんと同じように、私も海辺での暮らしに憧れ、今はそれを実践しています。
科学は、地球上の生命が海で進化したことを教えてくれます。食、旅行、貿易、輸送、娯楽 — 海は、今も多くを人類に与え続けてくれており、私たちは依存し続けています。
海は地表の4分の3を覆い、世界の酸素の50%以上を生成しています。地球の気候システムを司り、1980年代以降、排出されている余剰熱の90%を吸収し、人間の活動で生み出された二酸化炭素排出量の20〜30%を吸収して、地球温暖化の影響を緩和してくれています。
人間と海には、特別な関係があります。今から10年以上前の2009年、国連は6月8日を「世界海洋デー」と定めました。
そして私たちIBMは、この貴重な資源の回復と保護に取り組み続けています。
■ 海の健康サイクルを好転させるために
「どこまでも尽きることのない海」というのは人間の大きな誤解です。
イングランド南部沖のワイト島に住んでいる私にとっては、海面上昇は火を見るより明らかであり、洪水は身近な脅威です。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の海洋に関する特別報告書によれば、海はこれまでになく汚染され、熱くなり、酸性度を高め、生産性を低め、嵐や高波の恐れを高め、予測不可能であり枯渇危機に面しています。これらの脅威は、その多くが人間の活動によるものです。
海の健康低下のサイクルを反転させる国際的な取り組みが必要なことは明らかであり、それが「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」という宣言が発された理由です。
IBMはこの取り組みを支持し、国連環境計画(UNEP)と共同で、市民科学者からのデータとAIにより海洋ごみを減らそうという海洋汚染に取り組むパイロットプロジェクトを発表しました。
この取り組みは、海洋に対する理解を深め、海の使用と管理をどのようにすればより持続可能となるのかを探るものです。そしてゴールの達成は、いかに多くのデータを収集できるかにかかっています。
■ AI時代の海洋データ収集とは
ご存知ですか? 人類が海に関して持っているデータ量は、火星の表面に関するデータ量以下だということを…。
理由はいくつかあります。海洋調査ミッションには危険性があること、人間が海上で過ごせる時間には限界があること、そして調査船の出航には多大な費用が必要であり、新型コロナウイルスは今後の資金調達に暗い影を落としています。
でも、人間不要でデータを収集できる研究船があったならどうでしょうか? そして人間が、データの解釈だけに集中できる方法があれば、海洋の解明は急速に進むことでしょう。
それが、IBMも加わり、海洋研究組織プロメアを中心に実施される完全自動航行船「メイフラワー号」プロジェクトです。
大西洋初横断400周年を記念して建造された新しいメイフラワー号は、太陽光エネルギーを動力としてAIにより航行する完全自動航行船で、その一番の特徴は人間は誰一人として乗船していないこと。イギリスのプリマスからアメリカのマサチューセッツ州プリマスまで、船長も船員もいない完全無人航海に挑みます。
完全無人の良いところは、船体に寝室もトイレもキッチンも、そして救命設備も食べ物の保管スペースも不要だということ。それが意味するのはより小さくより軽くより空気力学的に優れた船を作ることができるということと、より多くの研究機器を搭載できるということ。
そして人体の制限がないので長時間の航行が可能となるため、マイクロプラスチック汚染、持続不可能な漁法、生息地環境の劣化、海洋哺乳類などの特別な種への影響など、科学者たちが必要としている海洋の脅威解明に関する重要データの収集に、大きな可能性をもたらします。
今後、完全自動航行船メイフラワー号は、最も柔軟で費用効果の高い海洋データ取得方法の、そして新世代海洋ドローンの新たなスタンダードとなるかもしれません。
IBMは、メイフラワー号へのAIの他、Food Trustというブロックチェーン技術を水産物業界に提供しています。漁船や養殖業者、サプライヤー、小売業者、消費者の間に透明性と信頼性の高いネットワークを築くことで、より持続可能な漁業慣行を促進することができるでしょう。
そしてブロックチェーン技術はプラスチックの収益化にも用いられており、今後プラスチックごみが海へと流れ出すことを防止することが期待されています。
私たちIBMがこれらの先駆的なプロジェクトをサポートしているのは、すべての生物にとっての重要な海洋という資源を守るには、テクノロジー企業をはじめ産官学が協力し、より大きな地球にとっての大義を成し遂げる必要があると信じているからです。
さあ皆さん、少しの間もう一度目を閉じて、何が可能かを一緒に想像してみましょう。
オリジナルの記事では、AIとブロックチェーンの技術について書かれていますが、完全自動航行船メイフラワー号には、他にもIBMの誇る多数の先進テクノロジーが実装されています。
ここでは、その中でもとりわけ重要な役割を担っているエッジ・コンピューティングと超詳細気象データについて、Cognitive Applications事業部のお二人に聞いてみました。
エッジ・コンピューティングの役割
土屋: この完全自動航海で最重要任務を担う船長はAIですが、その右腕が意思決定自動化ソリューションであるIBM Operational Decision Manager(ODM)とエッジ・コンピューティングです。
大西洋を航海する間、ネットワーク接続は断続的になるため、クラウドへの通信は制限されます。そのような状況下では、周囲の環境を感知し状況についてスピーディーに判断して行動指示を出せるエッジ・コンピューティング・システムの質が、航海の成否を分けるのです。
航海に必要なデータは天候データ、潮位データ、GPSデータ、AIS(船舶自動識別装置)データ、画像データなど多種多様です。これらのデータをダイナミックに統合して取り扱い、正確な判断をし続けていく必要があります。難易度の高さは生半可なものではありません。
今回の航海では、通常の航海では航海士が行う「見張り監視」を、IBM Visual Insightsで開発した画像判定モデルを利用して、NVIDIAのJetsonというシングルボードベースの監視カメラがリアルタイムに処理を請け負います。
ブイや浮遊物、そして他の船舶を避けるためには、物体を認知し判断するこれらデータと、風速計や潮位などの気象・環境センサーからのデータを、的確かつ包括的に用いた判断が欠かせません。
超詳細気象データの役割
加藤: ウェザービジネスの正確なデータは、主に衛星回線を通じて提供されます。航行中にももちろん活用されますが、とりわけ重要な役割を果たすのは、航海そのものを成り立たせる最も重要な場面である出航時と、陸地へとアプローチする到着時です。
ウェザービジネスの提供データには、風向風速の他、波高(有義波高: Significant wave height)の予報も含まれています。
また、大西洋は6月初頭から11月末頃までハリケーン・シーズンとなります。ウェザービジネスはハリケーンの規模と進路を5日以上前から正確に予測できるので、完全自動航行船メイフラワー号の進路決定に重要な情報を提供することとなるでしょう。
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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