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EAMの勘所:第7回 RCMの考え方と管理手法(2)

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RCMプログラムの策定

EAMの勘所とは

企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第7回目は「RCMの考え方と管理手法」に関して、プログラムの策定についてご紹介いたします。

RCM(Reliability Centered Maintenance:信頼性中心保全)の具体的な活動を開始する前に、その全体を管理統括する全体プログラムを作成する必要があります。なぜならば「RCMは辛く長い茨の道を歩む活動」だからです。
皆さんはRCM活動とはどんなものを想像されますか?現在ではWebページでRCMと検索すると様々な情報がヒットして、中にはRCMの活動を援助するコ ンサルティングサービスやRCMの情報を提供するシステムなどを見つけることが出来ます。でもこれは「RCMはどこかのサービスやソフトウェア製品を使用 すると実現できる」というような誤解を生むことにつながります。では実際にRCM活動とはどのようなものでしょうか?一般的にRCMでは2つの大きな活動 に分類されます。

  • 機器台帳の作成:RCM活動の対象となる設備・機器を台帳化し、設備単位にRCMの故障モード、保全パラメータを設定して保全プログラムを作成します。通常この作業は数年の期間で終了します。
  • リビングプログラム:保全プログラムに基づいて実行される保全活動の結果を保全プログラムにフィードバックして、保全パラメータ(保全手法、保全周期など)を調整・最適化します。この活動はプラントの設備がなくなるまで継続します。したがって数年から十数年の期間を要します。

つまり、どちらにしても長い活動期間が必要で、そのうちには組織変更や企業買収など様々な事態に遭遇しますが、これを跳ね除けて長期に渡る一貫した 活動が必要になります。したがって、RCM活動を始める前にはその活動プログラムをしっかり作成する必要があるのです。コンサルタントもコンピュータシス テムも実際の設備の状況を知るプラントの担当者にはかないません。RCM活動はそのプラントエンジニアや保全担当者が知恵と時間を出し合って活動するプロ グラムなのです。
では、これからそのRCMの実行ステップを、順を追って説明します。


 1. 準備組織編成

RCM活動を開始する前にはじめに行う必要があるのは準備組織を編成することです。準備組織はこれから実行していくRCM活動に関して組織(企業) 全体としてきちんとしたプロジェクトと位置づけ、その責任と予算を獲得する重要な活動です。RCM準備組織編成(仮にRCM準備委員会と呼びます)には以 下のような担当者が参加する必要があります。

表1:RCMの準備委員会のメンバー

担当役職 役割
取締役もしくは執行役員 保全関連の取締役もしくは執行役員クラスの上級管理職でRCM活動全体のプロジェクトを組織(企業)の取締役会などで正式プロジェクトとして発足させます。また活動に必要な予算の獲得を支援します。更に組織全体の改革担当の責任者としてリーダーシップを発揮します。
プラント技術部門長 プラントで使用している設備などを技術的な側面から評価するための技術職を割り当てるため、技術部門の管理職が準備委員会に参加します。主にRCMの活動に必須となる設備台帳の作成、故障モード分析、保全パラメータ変更など技術的な側面でのリーダシップを期待します。
保全部門長 実際の保全作業を取りまとめる管理職で、実際のプラントの現状の把握、作業の標準化、保全作業結果のフィードバックなどリビングプログラムの主役としてのリーダーシップを期待します。
プログラムオフィス担当部門長 RCM活動全般を支えるプログラムオフィスの部門長。RCM活動では会議、報告会、教育など様々な活動が必要で、その事務的な管理サポートを一手に行います。
ファシリテーター 実際のRCM活動を管理するプロジェクト管理者でプラントの情報、設備およびRCM活動などを行った経験のある担当者を選任します。RCM活動の成否はファシリテーターの能力に大きく左右されます。
リスクマトリクス評価 発生頻度、重要度、影響度を加味したリスク管理の優先度を指定する。
必要な担当者 ディスカッションの各局面で必要な技術者および保全担当者を参画させます。
RCMコンサルタント RCMの導入経験が豊富なコンサルタントで、他社での活動事例を交えながら、その組織(企業)のあるべき方向性をガイドします。RCMコンサルタントは社外・社内は問いません。RCM活動を初めて行う場合は必然的に社外コンサルタントを採用します。

RCMの準備委員会メンバーはRCM活動を組織(企業)の正式なプロジェクトとして位置づけるために、その主旨、目的、目標、効果の測定方法など 様々な機軸なる情報を標準化・文書化します。また10年単位で行うプロジェクトの期間、予算概要、スコープを決定します。このドキュメントは保全活動全て の標準の基本になるものです。
決定されたプロジェクトおよびそのドキュメントは取締役会での正式な承認を得ます。


 2. RCM計画の作成

RCM活動計画では以下の内容を明確にして文書化します。

  • RCM活動のグランドデザインと規則、仮定の定義
  • はじめの活動範囲の決定(プラント全体を一挙にRCM活動に乗せることは一般的に人的資源や予算の問題で難しいため、最初の活動する範囲を決めます。例:発電プラントから始める…など)
  • 継続的に実行すべき作業項目の作成
  • 利用可能な人的資源やデータの識別
  • 責任分担の定義
  • 効果の測定方法の定義
  • 教育の要件、教育計画
  • 外注企業・作業員との協力体制の確立、指示の方法
  • 報告内容の決定
  • 具体的な必要予算内容の決定
  • RCM活動計画並びにマイルストーンの決定

この上記に内容はRCM準備委員会で作成する場合もありますが、日本では各部門の責任者が上記の決定や文書化を行うことは難しい場合もあるので、次 に示すRCMプロジェクトチームが作成することになるでしょう。しかし、その内容についてはRCM準備委員会のメンバーによって、レビューされ承認されて いなければなりません。


 3. RCMプロジェクトメンバー

RCMプロジェクトメンバーはRCM活動の詳細な計画を作成する担当者で以下のような人員から構成されます。

表2:RCMプロジェクトメンバー

担当役職 役割
RCMスポンサー 保全関連の取締役もしくは執行役員クラスの上級管理職でRCM準備委員会のメンバー。通常の活動には参加しませんがステアリングコミッティーから定期的な報告を受け、重要な判断(スコープ、スケジュール、予算の変更など)には参加します。 RCM活動に最終的な責任者です。
ステアリングコミッティー RCM準備委員会のメンバーで構成され、定期的にRCMの活動状況の報告を受け、必要な判断を行います。またRCMスポンサーに対して報告を行います。さらに、重要な判断(スコープ、スケジュール、予算の変更など)を行います。
ファシリテーター 実際のRCM活動を管理するプロジェクト管理者でRCM活動の実質的な総責任者です。ファシリテーターは利害が衝突することが多いRCM活動の調整役であり、またプロジェクト管理者です。一般的にはRCM活動について知識を持ち、社内でも人望の厚い担当者を選任します。
技術部門担当者 技術部門から選任された担当者です。機器台帳の作成、優先順位付け、故障モード分析などRCM活動に必要な技術的な側面を支援します。そのほか保全パラメータ、技術文書を変更する場合の管理プロセスの作成を行ないます。
保全部門担当者 保全部門から選任された担当者です。実際のメンテナンスプログラムの状況の収集や保全作業の標準を作成します。そのほか保全管理に関する管理プロセス(PDCAプロセス、承認プロセスなど)の作成を行います。
プログラムオフィス担当者 RCM活動全般を支えるプログラムオフィスの担当者です。会議、報告会、教育などの準備、ドキュメントの管理など他の担当者の活動を支援します。
RCM教育担当 RCMプログラム全般の教育(RCMの思想と重要性、チェンジマネージメント、新しい管理プログラム、新システムなど)を担当します。
RCMコンサルタント RCMの導入経験が豊富なコンサルタントで、他社での活動事例を交えながらその組織(企業)のあるべき方向性をガイドします。

RCMプロジェクトメンバーは以下の内容を作業します。

  • RCM活動での決定ロジックの作成
  • 信頼性およびメンテナビリティーに関する分析・評価方法の決定
  • 各部門・組織ごとの専門性の認識・割当て
  • 各作業分野(例:修理、点検、潤滑油管理、較正管理、試験など)ごとの要求事項の把握
  • コンピュータの活用スキルの向上
  • 統計学的分析手法(例:日科技連QC7つ道具など)の活用方法
  • 構造分析手法の決定(例:ロケーション、設備階層の決定)
  • 個別作業の仕様書作成(RCM活動に関して、誰が、何時までに、何を、何故、何処で、どのように作業をするかの個別計画)
  • 予算関連門問題の解決
  • 情報部門との連携(RCMで使用する情報システムの構築並びに現行システムからのデータ移行などのため)
  • 設備の機能及び故障分類の把握

このように、RCM活動を行うためにはプラントの幅広い知識を必要とするばかりでなく、長期的な活動が必要になるためにプロジェクトを管理する手法 を熟知したプロフェッショナルが一般的に必要になります。この点に関してRCMファシリテーターの能力はかなり重要でRCMコンサルタントがRCMファシ リテーターを兼務する場合も多く見受けられます。ただし、RCMコンサルタントを外部から調達するような場合は何年もその担当者を拘束することは難しく好 ましくない(多くの予算を必要とする)ので、組織内でRCMファシリテーターを育てる必要がでてきます。また1回のRCM導入プロジェクトで企業の複数の 対象、複数のプラント・工場を一度にRCM活動に参加させることは難しいため、複数のRCMファシリテーターを育てる必要があります。

下に、RCM活動の各ステップと今回のRCM計画に作成の関係を図示します。

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図1:RCM活動の各ステップと計画作成段階の関係

 

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