IBM Sustainability Software
次世代火力発電EXPO「最新技術の保全応用」セッションレポート
2020年03月10日
カテゴリー IBM Sustainability Software | イベントレポート | 設備保全・高度解析
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「今日は、私が現場で感じてきたことを踏まえて、現場の皆さんに役立てて貰える、あるいはそのヒントとなるような話を中心に、技術本位やソリューション本位にならないお話をさせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。」
そんな挨拶からスタートした次世代火力発電EXPOの特別講演『現場で使えるMachine Learning Solutionとは”対話式音声保全〜最新技術の保全応用”』の一部をご紹介します。
日本アイ・ビー・エム ソフトウェア&システム開発研究所 ソフトウェア技術協業部長
的場 伸光
「手持ちのデータを投入すれば、AIがすぐに答えを導き出してくれる」 — 私は石炭発電所や大規模ボイラー施設にご支援に行かせていただくことも多いのですが、こんな言葉に代表される誤解も、ようやく解けてきているのかなと感じています。
AIにはトレーニングが必要で、そしてトレーニングにはデータが必要です。
すでに現場が持っているデータを正しく取り扱い、トレーニングに適した形に分類・整理することが大変重要なポイントとなるので、まずはそういったお話をさせていただきます。
■ 検索・テキストマイニング・機械学習
機械学習を考える上でまず欠かせない技術がテキストマイニングです。
IBMのAIテクノロジー「Watson」をご存知の方も多いと思いますが、Watsonもテキストマイングからスタートしました。もう9年前となりますが、「Jeopardy!」というクイズ番組で2人の世界チャンピオンを倒したのも、根幹にあるのはこの技術です。
ちなみに、IBMは世界中に研究所を持っていますが、テキストマイニング技術において世界をリードしているのが私も所属している東京の研究所です。
多くの場合、テキストマイニングは「1. 収集」「2. 解析」「3. 検索/マイニング/機械学習」というステップを踏みます。
ここでは3の「検索/マイニング/機械学習」に注目してみます。まず、それらがどのようなものかを整理し、どのように日常生活やビジネスに用いられているかを見てみましょう
- 検索 – 一般的には、文書の中から抽出されてインデックスされたデータの中から、検索ワードにマッチする単語や文章を返して表示する。
- マイニング – 単語や文章を、特定の種類や文脈(コンテキスト)などのファセットに分類してインデックス(マッピング)し、「相関値(相対的な傾向)」と共に表示する。
- 機械学習 – 事前に機械学習されたモデルに基づき、入力された文書全体を検索条件として、分類結果を確信度順で表示(ラベラー)したり類似文書を類似度順で表示(ランカー)したりする。
特に機械学習を行う例としては、医療機関からの保険会社への保険請求時に書かれている手術コードの精査や、患者状態(情報)に対する類似データ抽出にも用いられています。
それでは、こうした機械学習を保全プロセスに適用するとどうなるでしょうか。
異常発生時に現象を詳細に入力するだけで、システムは過去の類似事象を抽出して対処情報や根本原因を確信度付きで提示してくれます。これにより、作業者は調査不要で容易に事象に対処できるようになります。
■ 機械学習精度向上策と現場で使える対話型音声保全
と、申しましたが、実は保全プロセスへの機械学習の適用はそう上手くいかないケースが多いのが実情です。
いくつかの理由がありますが、1つは機械学習のモデル構築に用いられる企業が保持しているデータの多くが大幅に偏っていること。
それから機械学習モデルの構築には不十分な内容だということがあります。事故報告書や点検報告に記載されている文章がサマリーでしかなく、原因特定や対処作業予測に活かせる詳細な現象部分が抜けたデータとなってしまっていることも少なくありません。
また、これもよくあるケースですが、かなりの量のラベルが「その他」と分類されており、そのままでは現場対応に活かせるレベルの機械学習モデルの構築が難しいケースです。
そういう場合に重要なのが、データ精度を上げる手法を正しく用いること。
こちらのチャートは「その他」の取り扱いを工夫した上でデータを分割し、3つのモデルで検証する方法です。
他にも、内容が類似した分類でモデルを分割して僅かな差異を見分けられるようにしたり、既存データに適正なラベルを付け直すことも重要ですが、併せて今後のデータ取得時に「詳細な現場データを記録できる仕組み」作りをしていくことも重要です。
例えば、点検時には、作業担当者に点検すべき機器と各検査項目を画面に質問形式で自動表示し、それに回答させることで抜けのない点検を実現するといった方法があります。また多くの現場がそうであるように、点検作業時は装備などもあり手入力が困難な状況が多いため発話による音声入力が正確に行える仕組みを整えるといった方法が考えられます。
(会場では複数の動画によるデモが紹介されました)
ただ今ご覧いただいたデモでお分かりいただけたと思うのですが、相当大きな騒音の中でも正しく発声が認識されて記録されていましたよね。また、「B-BFP出口圧力制御弁から少量のグランド漏れあり」などといった専門的な用語が使われていましたが、それらも問題なく正しく変換されていました。
これは、現場の専門用語やコーパス学習ができないスマートフォン標準搭載の音声認識機能では対応が難しく、こうした「騒音」「専門用語」「前後の意味関係を認識した言語モデル」という対応が必要な点を踏まえると、実際に現場で使えるアプリケーションはかなり限られてくると考えます。
■ IBM MaximoとWatson Explorerによる保全ソリューション
先ほどご覧いただいた動画で、IBM Maximoという設備保全ソリューションとWatsonの組み合わせにより、現場作業者が質問に口頭で答えていくだけで、現場の日常点検が完了したり、問題発生時には原因や対応方法が示され、大幅な作業効率アップにつながることがご理解いただけたと思います。このように、保全作業が定義されデータを残すことができる基盤としてのMaximoや、過去の保全データなどが検索可能なExplorer(およびDiscovery)と連携することが、現場に対応できるソリューションを作るために必須となります。
さらにAssistantやExplorerの機能を活用し、質問意図からの相関により「問題に対応するのに最も適切な人物が誰か」まで提案までしてくれるというのも大きなポイントです。
昨今、ベテラン技術者が少なくなったり、人員の回転が早くなっているという現場が増えていますが、複雑な問題であればあるほど以前に発生した類似事象が提示されたり、同様な障害対応を行った担当者を見つけ出せることの意味は大変大きいと考えます。
最後に、IBMの最近の研究の中から、製品ではありませんが、特に設備保全に役立つと思われる技術を2つご紹介します。
まず、最先端ニューラルネットワーク技術の「Dynamic Boltzmann Machine (DyBM)」です。DyBMは、時系列に並んだデータのパターンを学習、再現できる特長を持っており、「スパイク時間依存可塑性(STDP)」というモデルを用いることで、高精度で高速に機器の状態を予測できるようになります。
もう1つは、「Acoustic anomaly detection technology」という技術です。ものを軽く叩く「タッピング」を通じて、対象物や材料の分類、不良品(ひび割れなど)の検出、容器内の液体量の検出などを行うことができます。
また、この技術により、音だけで機器の状態分析をすることもできます。発電所などへ行くと「ここにセンサーが取り付けられていればもっと正確に分析できるのに…」と思うことが少なくありません。ただ、音というのは複数のセンサー値を活用した分析よりも全体把握に用いやすい場合があり、かなり有用なケースが多いと考えています。
また他にも、溶接音を分析することで、正しく溶接が完了しているかどうかを判断することなどにも用いることができます。昔であれば溶接音を聞くだけで「ああ、溶かし過ぎて裏に落としているな」と分かるベテラン職人がいたのでしょうが、そうした人材がどんどん減っている昨今の現場では、こうしたシステムが大きな役割を担えるのではないでしょうか。
2020年中に、デジタルデータは40ゼタバイトまで増えると予測されています。そしてその中の80%が音声や映像、画像などの非構造化データであろうと言われています。
こうしたデジタルデータを保全に活かせるかどうか。それが企業の将来に大きく関わってくるのではないでしょうか。ぜひ、こうしたデータの保全への応用をIBMと共に考えてみたいという方がいらっしゃいましたが、お気軽にお声かけください。
本日はご静聴ありがとうございました。
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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(TEXT: 八木橋パチ)
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