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IBMのフェローが語る エッジコンピューティングの未来

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何百、何千のエッジデバイスをどう管理する?IBMのフェローが語る エッジコンピューティングの未来

IBMのフェローを務めるロブ・ハイ氏

データを生み出すエッジデバイスは膨大だ。何百、何千個ものデバイスを管理する必要があるエッジコンピューティングの課題と解決策、そして将来像とは。IBMのフェローが語る。

 

高まるエッジの重要性

データを生み出すIoTデバイスは、工場や小売店、物流倉庫、自動車など、いまやさまざまな場所に配置されている。カメラやセンサー、製造機器、業務用のタブレット端末など、IoTデバイスの種類も多様だ。これらのデバイスが生み出すデータをいかに収集し、活用するかが企業のビジネス戦略の鍵を握っている。

中でも近年では、データが生成される現場と、収集したデータを処理する場所をいかに近くするかが重要な課題となりつつある。データ活用のインフラとしてクラウドを活用する企業は少なくないが、クラウドはデータが生み出される場所から物理的に離れてしまうのが難点で、ネットワークの遅延がどうしても発生してしまう。

「例えば工場の製造ラインで品質保持のために画像・動画解析をする場合、製造ラインのスピードを落とさないためには、ミリ秒単位でのリアルタイム性が求められる。しかし、こうした画像や動画データをクラウドで分析すると250ミリ~500ミリ秒ほどの遅延が発生する」。エッジのデータをクラウドで分析する際の課題をこう語るのは、IBMのフェローで、エッジコンピューティング事業のバイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)を務めるロブ・ハイ氏だ。

ネットワークの遅延を低減するために必要になるのが、エッジでデータ処理をするエッジコンピューティングだとハイ氏は説明する。ただし、エッジとクラウドは対立するものではなく、補完的に連携させることが必要になるという。IoTデバイスが生み出すデータは加速度的に増加しており、全てのデータをエッジで保管しておくことは難しいという現実があるためだ。クラウドであれば迅速な拡張が可能で、コスト抑制につながる可能性もある。重要度は低いが膨大な量になるデータをクラウドで保管し、現場ですぐに活用すべき重要度の高いデータはエッジで処理する、というわけだ。

セキュリティの観点でもエッジコンピューティングは重要だ。「データは、移動させるたびに漏えいや攻撃のリスクにさらされる」(ハイ氏)。そのため機密性の高いデータはWANで移動させることを避けて現場で保管し、必要に応じて活用できることが理想的だ。さらに「BCP(事業継続計画)の観点から、ネットワークがダウンしても現場の業務を停止させないという意味でもエッジコンピューティングの意味はある」とハイ氏は付け加える。

実用化が迫る「5G」(第5世代移動体通信システム)もエッジコンピューティングにおいては重要なネットワークになるという。「5Gは低遅延という特性を持っているため、リアルタイム性が求められるデータ分析で活用される可能性がある」(ハイ氏)。有線接続の場合はケーブルを敷設する作業がどうしても必要だが、5Gは無線であるためその工程が必要なく、工場や倉庫などでは特に魅力的なネットワークになる。

 

膨大なエッジデバイスをいかに効率的に管理するか

エッジコンピューティングにおいて課題の一つになるのがデバイスの効率的な管理だ。エッジでは何百、何千もの機器を制御することになる。「どのようなインフラを用意し、どのようなソフトウェアを使ってデバイスを管理し、どうやってデータを分析するのかなど、考えるべきことは少なくない」(ハイ氏)。デバイスの台数が多いということは、セキュリティのリスクが増大することも意味する。「データセンターは厳重に警備された施設で物理的に守ることができるが、エッジデバイスやエッジサーバはさまざまな場所で稼働する。多数のデバイスのセキュリティをいかに効率的に確保するかを考える必要がある」(ハイ氏)

問題はデバイスの管理だけではない。クラウドや自社のデータセンターに加えて、新たにエッジコンピューティングの環境を構築するとなれば、それだけ管理する必要のあるIT環境が増えるということだ。データの保管や分析をエッジとクラウドで使い分けるとなれば、なおさら一貫性のある運用管理が求められる。

IBMがこうした課題に対して2019年9月にリリースしたのが「IBM Edge Computing」だ。これはIBMが培ってきたIT管理技術とコンテナ技術をエッジコンピューティングにまで拡張した製品で、多数のエッジデバイスと、エッジデバイスで実行されるコンテナアプリケーションの一元管理を可能にする。

IBM Edge Computingは、コンテナ管理基盤の「Red Hat OpenShift Container Platform」(OCP)をベースにしている(図1)。OCPはコンテナオーケストレーションツールの「Kubernetes」をベースに構築した製品だ。ハイ氏はKubernetesベースの集中運用管理の利点について、「クラウドやオンプレミスでユーザーが開発したビジネスロジックやDevOpsの仕組みとそのノウハウをエッジにも展開し、クラウドとエッジサーバ上のワークロードを一元的かつ効率的に管理できる」と語る。

図1 IBM Edge Computingの構成図

またエッジデバイスのシステムについて「Linux FoundationのLF Edgeプロジェクトに参加する、オープンソースの『Open Horizon』を用いて、コンテナ上のワークロードを管理できる」とハイ氏は説明する。これによって、例えばクラウドで構築した機械学習のモデルをエッジサーバに効率的にデプロイするといった運用も可能になるという。「さらに、膨大な数のデバイスへのワークロードの展開を管理者が一つずつ実行する必要がなく、動的な管理が実現する。これにより1人の管理者が、何万台、何十万台のデバイスを管理することも可能になる」と語る。

エッジコンピューティングにおいてIBMが最も重視しているのは「オープン性」だという。Red Hatを買収したことでオープン性を重視する方針は一層強化されている。Red Hatをはじめとした製品が持つオープン性に、IBMがこれまでに培ってきたコンテナやDevOps、アジャイル開発、システム構築などの知見を組み合わせて誕生したのがIBM Edge Computingだ。オープンソースのテクノロジーをベースにすることにより、IBMやコミュニティー、サードパーティーのさまざまなソリューションをエッジサーバやデバイスに展開することはもちろん、ユーザーがクラウドやオンプレミスで内製するシステムや自社のノウハウもエッジに展開可能となる。「顧客から最初に言われるのが、既存のさまざまなソースやベンダーへの投資を生かしたい、ということ。この要望に応えるにはオープンでなければならず、それがIBMのDNAにも刻まれている」(ハイ氏)

 

IBM Watsonをエッジで活用する

IBMがこれまでに展開してきたAI技術やデータ分析、サーバレス、ストリーミングといった機能は今後エッジでも活用できるようになってくる。中でも気になるのはAIシステム「IBM Watson」だ。「エッジコンピューティングでは、データ分析や画像認識、音声認識などAI技術へのニーズが高まっている。IBM Edge ComputingによってWatsonをエッジ環境で活用することが可能になる」(ハイ氏)

機械学習モデルを構築する工程においては、エッジとクラウドとの連携が重要になるという。機械学習の工程はモデルのトレーニングと、トレーニング済みモデルを利用したデータ処理の二段階に大きく分けられる。トレーニングには膨大なデータ量とコンピューティング処理が求められるため、エッジよりはクラウドが適している。一方でモデルを使ったデータ分析のニーズがあるのはエッジだ。「クラウドに大量のデータを集約し、リアルタイムの解析はエッジで実施するというのが合理的」(ハイ氏)

データを生み出すエッジデバイスの増加は今後さらに加速すると予測されている。デバイスの対象はスマートフォンのようなモバイルデバイスだけでなく、センサーやカメラなど多様なため、今後さらに増加の勢いが増す可能性もある。「エッジコンピューティングは、これから長期間にわたって成長が期待される分野。モバイルコンピューティングが10年前には思いも寄らなかったほど進化しているように、10年後には今は想像もできないような価値を生み出しているだろう」(ハイ氏)

エッジコンピューティングはクラウドや自社データセンターと補完関係にあり、これらを統合的に運用するハイブリッド環境がこれからは当然の時代になる。オンプレミスからクラウド、エッジまで幅広く手掛け、そしてオープン性を志向するIBMだからこそ描ける未来がある。

#本ブログ記事は、アイティメディア「TechTarget Japan」2019年12月09日掲載記事を転載したものです。オリジナル記事はこちらから>>

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